NMNとは?
近年、NMN(ニコチンアミド・モノヌクレオチド)が“若返りサプリ”と呼ばれ話題になることが増えています。メディアではエイジングケアや美容と結びつけて紹介されることもありますが、その背景には、生体内のエネルギー代謝や修復機能を支える物質「NAD⁺」との深い関係があります。
NMNはもともと体内でつくられる成分で、枝豆、ブロッコリー、きゅうり(皮・種)、アボカド、キャベツなどに微量ながら含まれています。1)日常的に親しまれている食材に含まれていることから、NMNは特別なサプリメント成分というよりも、もっと身近なものであると言えるでしょう。
NAD⁺とNMN
NMNを理解するうえで欠かせないのが、「NAD⁺(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)」という補酵素の存在です。NAD⁺は、細胞のエネルギー代謝をはじめ、ミトコンドリアの機能維持、DNA修復、炎症の制御、概日リズムの調整など、多くの生命現象に関わる重要な分子です。1)2)
またサーチュインなどの長寿遺伝子の活性化に不可欠です。3)
ところがこのNAD⁺は、ストレスや加齢とともに体内で減少しやすく、ミトコンドリア機能の低下や慢性的な炎症、代謝異常などの要因となることが示されています。また、NAD⁺はそのままでは細胞内に取り込みにくいため、外から直接補うことが難しいという課題もあります。1)2)
そこで注目されているのが、NAD⁺の前駆体であるNMNです。NMNは体内に取り込まれると酵素の働きによってすみやかにNAD⁺へと変換され、減少した細胞内のNAD⁺プール(利用可能なNAD⁺の総量)を適切なレベルに保つ役割を果たすとされています。2)4)
臨床研究でわかってきたこと
日本国内でも、NMNのヒトへの効果と安全性を評価する臨床試験が実施されています。たとえば、65歳以上の健康な高齢男性を対象とした試験では、12週間のNMN摂取(1日250mg)により、歩行速度や握力の改善傾向が報告されました。筋肉量に大きな変化はみられなかったものの、体内のNAD⁺濃度が有意に上昇し、生理的な活力の維持に寄与する可能性が示唆されています。5)
また、40〜59歳の中高年を対象にした別の研究では、動脈硬化の指標の軽減傾向が確認されました。3)これは、NMNが血管の柔軟性や健康維持に役立つ可能性を示しています。
糖尿病予備軍にあたる過体重または肥満の閉経後女性を対象とした、無作為化プラセボ対照の二重盲検試験では、NMNを10週間にわたり1日250mg摂取したグループで、筋肉がインスリンに反応して血糖を取り込む力(インスリン感受性)が高まりました。また、筋肉の中で代謝を活性化するような遺伝子の働きも変化していました。一方で、筋肉量や全身のミトコンドリア機能には大きな変化はみられず、骨格筋での代謝応答が選択的に改善されていたことがわかります。6) NMNの特徴を知るうえで、注目しておきたいポイントです。
さらに、20〜65歳の成人に対して1日1250mgという高用量での投与試験も行われており、こちらでも有害事象は報告されず、良好な忍容性が確認されています。2)
こうした結果から、NMNはヒトにおいても比較的安全で、特に骨格筋や血管機能など一部の代謝機能に対して有望な影響を持つことがわかってきました。
まとめ、身近な成分で解ってきたこと
NMNは、NAD⁺の前駆体として、代謝や細胞の修復といった体の基本的なはたらきを支える成分です。加齢や環境ストレスによって変化する体内のバランスに、自然なかたちで対応する手段として注目されています。今後の医療や健康支援のなかで、NMNに関する知識は、選択肢を広げる上で確かな手がかりとなるでしょう。
文献
1)Kathryn F M.et al., Long-Term Administration of Nicotinamide Mononucleotide Mitigates Age-Associated Physiological Decline in Mice: Cell Metab. 2016 Dec 13;24(6):795-806.
2)Yuichiro F.et al.,Safety evaluation of β-nicotinamide mononucleotide oral administration in healthy adult men and women:Scientific Reports,
vol.12, 14442 (2022)
3)Takeshi K.et al.,Nicotinamide adenine dinucleotide metabolism and arterial stiffness after long-term nicotinamide mononucleotide supplementation: a randomized, double-blind, placebo-controlled trial:Sci Rep. 2023 Feb 16;13(1):2786.
4)Yasir S E.et al., Targeting NAD+ in Metabolic Disease: New Insights Into an Old Molecule: J Endocr Soc. 2017 May 15;1(7):816–835.
5) Masaki I.et al., Chronic nicotinamide mononucleotide supplementation elevates blood nicotinamide adenine dinucleotide levels and alters muscle function in healthy older men:NPJ Aging. 2022 May 1;8(1):5.
6) Mihoko Y.et al.,Nicotinamide mononucleotide increases muscle insulin sensitivity in prediabetic women:Science. 2021 Jun 11;372(6547):1224-1229