カカオが支えるこころとからだ
カカオが注目される理由
カカオはチョコレートの原料として知られるだけでなく、「スーパーフード」として世界的に注目されています。カカオ豆から作られる食品には、焙煎した豆を砕いたカカオニブ、脂肪分(カカオバター)を一部取り除いて粉にしたココアパウダーなどがあります。
ココアパウダーには大きく2種類があり、「非アルカリ処理(ナチュラルココア)」はポリフェノールを豊富に含むのが特徴です。一方、一般的な「アルカリ処理(ダッチココア)」は苦味が少なく飲みやすい反面、ポリフェノール量が減ってしまいます。
近年は、ポリフェノールを多く含むナチュラルココアや、加工度の低いカカオニブが健康志向の食生活で活用されるようになり、血管や代謝、気分をサポートする研究も増えています。
からだを支えるカカオの働き
血圧を穏やかに下げ、血管の働きを助ける
カカオに含まれるポリフェノールの主成分はフラバノール類(特にエピカテキンやカテキン)です。フラバノールは血管の内皮機能を整え、一酸化窒素(NO)の産生を高めることで血流をサポートします。1)
健康な成人を対象としたランダム化クロスオーバー試験では、フラバノールを約500mg含むダークチョコレート(100g/日)を15日間摂取することで、収縮期血圧の低下とインスリン感受性の改善が確認されました。2)さらに、耐糖能異常(IGT)と軽度の高血圧をもつ成人を対象とした別の試験でも、同様の条件で血圧とインスリン感受性の改善が報告されています。1)
こころを支えるカカオの力
カカオに含まれるテオブロミンは、カフェインと同じ仲間の成分ですが、作用が穏やかで神経過敏や不眠を起こしにくく、血流を促し、気分をサポートすると考えられています。3)
また、カカオポリフェノールを豊富に含む高カカオチョコレートには、ストレス反応を和らげる可能性が示されています。
医学生を対象にした試験では、ダークチョコレートまたはミルクチョコレートを1日40g、2週間摂取すると、自己申告による知覚ストレス(PSSスコア)が低下しました。ホワイトチョコレートでは有意な変化はみられず、ダークチョコレートとミルクチョコレートの効果は特に女性で統計的に有意に確認され、男性でも低下傾向がみられました。4)
こうした研究から、高カカオチョコレートは日常のストレス対策や気分の安定をそっと支える存在になり得ると考えられています。
ただし、効果は個人差があり、医学的な治療法ではないため、楽しみながら無理のない範囲で取り入れることが大切です。
日常に取り入れるコツ
カカオはパウダーだけでなく、カカオニブでも摂れます。健康効果を期待するなら非アルカリ処理のナチュラルココアを選ぶのがおすすめです。
ニブは加工が少ないためポリフェノール量がより豊富ですが、ザクザクした食感と強めの苦みで好き嫌いが分かれることがあります。一方、パウダーは飲み物や料理に混ぜやすく、摂取量の調整もしやすいのが利点です。
極端な差が出るほどではなく、非アルカリ処理パウダーでも十分なポリフェノールを摂れます。使いやすさや好みに合わせて選ぶと続けやすいでしょう。
•カカオパウダー:大さじ1〜2杯(約5〜10g)を飲み物や料理に。
•カカオニブ:10〜20gをヨーグルトやオートミールに。
市販の高カカオチョコレートの利用も良いでしょう。パッケージにポリフェノール量が記載されているので、摂取量の目安をつかみやすいのが利点です。甘さが控えめで苦みがあるため、少量ずつ取り入れるのがおすすめです。
カカオに含まれるテオブロミンは、高用量では吐き気や頭痛のほか、不安感やネガティブな気分を誘発する可能性があります。3)敏感な方や妊娠中の方は、コーヒーなど他のカフェイン飲料との合計摂取量に注意しましょう。
まとめ
カカオは血圧や血管機能をサポートし、糖代謝や気分にも穏やかに働きかける食品です。劇的な効果ではありませんが、スーパーフードとして日常に取り入れる小さな習慣が、こころとからだをやさしく支えてくれます。
参考文献
1.Grassi D, Desideri G, Necozione S, et al. Blood pressure is reduced and insulin sensitivity increased in glucose-intolerant, hypertensive subjects after 15 days of dark chocolate. Hypertension. 2008 Apr;51(3):983-991.
2.Grassi D, Lippi C, Necozione S, Desideri G, Ferri C. Short-term administration of dark chocolate is followed by a significant increase in insulin sensitivity and a decrease in blood pressure in healthy persons. Am J Clin Nutr. 2005;81(3):611–614.
3.Baggott MJ, Childs E, Hart AB, de Bruin E, Palmer AA, de Wit H. Psychopharmacology of theobromine in healthy volunteers. Psychopharmacology (Berl). 2013;228(1):109-118.
4.Al Sunni A, Latif R. Effects of chocolate intake on perceived stress; a controlled clinical study. Int J Health Sci (Qassim). 2014;8(4):393-401.