スーパーフードとサプリメント入門-マカが整えるこころとからだ

マカは、南米アンデス高地で古くから滋養強壮や疲労回復に使われてきたアブラナ科の植物です。近年は「スーパーフード」としてサプリメントや健康食品に広く利用され、注目を集めています。

多成分が生む独自の作用

マカの特徴は、マカミド、マカエン、グルコシノレートなど、複数の成分が互いに影響し合いながら働く点です。こうした「多成分シナジー」により、ストレス耐性や神経保護といった幅広い作用を示すと考えられています。

ストレス応答とHPA軸の調整

マカは、体がストレスに適応しやすくなるよう助けるアダプトゲン(ストレスへの抵抗力を高める植物や天然成分の総称)の一つと考えられています。ストレス時に体内では、HPA軸(視床下部–下垂体–副腎軸:ストレスを受けるとコルチゾールなどのホルモンを分泌して体を守るシステム)が働きます。マカはこのHPA軸を調整し、コルチゾールの過剰分泌を抑える可能性が示されています。かつてはマカアルカロイドによるホルモン調整が注目されていましたが、現在ではマカミドやグルコシノレートなど複合成分によるアダプトゲン的作用が有力とされています。

神経伝達系とエンドカンナビノイド系

マカミドは、エンドカンナビノイド系(気分や神経保護を調整する体内の神経ネットワーク)に作用することが知られています。また、FAAH(脂肪酸アミド加水分解酵素)を阻害してエンドカンナビノイドの分解を抑える可能性も報告されています。これにより、ドーパミンやセロトニンの伝達がサポートされ、抗うつ・抗不安・神経保護といった効果が期待されています。

腸脳軸を介したメカニズム

近年は、マカが腸脳軸(腸と脳が神経・ホルモン・免疫を通じて互いに影響し合う仕組み)を介して脳へ作用することも分かってきました。特に注目されているのが、マカに含まれるエクソソーム様小胞(細胞が分泌する極小の袋状の粒で、情報を運ぶ役割をもつ)です。これらの小胞が腸内細菌叢を変化させ、セロトニン(5-HT)の代謝を促進し、血中5-HT濃度を高めることが報告されています。結果として、脳内のBDNF(脳由来神経栄養因子:神経の成長や可塑性を支えるたんぱく質)がTrkB受容体に結合し、AKTという細胞内経路を活性化して神経を保護・修復するシグナルが働くと考えられています。

神経保護・抗疲労・抗炎症作用

マカ抽出物やマカミドには、動物研究で次のような作用が確認されています。
•酸化ストレスを軽減(活性酸素やMDAを低下)
•炎症を抑制(TNF-α・IL-6などを減少)
•BDNFを増加させ、記憶・学習をサポート
•抑うつ様行動や疲労を改善
これらは、ストレス関連の不調や加齢による脳機能低下を補助する可能性を示唆しています。

摂取量の目安

臨床研究では、1.5〜3 g/日のマカ粉末やエキスを12週間ほど摂っても大きな副作用は報告されていません。ただし、長期的な安全性についてはまだ十分なデータがありません。

取り入れ方

パウダーはスムージーやヨーグルト、オートミールに混ぜるのが手軽です。
温かいスープに加えるのもおすすめで、自然な風味がなじみやすく、寒い季節や朝食にも取り入れやすい方法です。
サプリメントは1日1.5〜3 g相当の製品が一般的で、表示量を守ると安心です。

タイミング

活力サポートやストレス対策を目的にする場合は朝〜日中の摂取が適しています。

注意点

ホルモン感受性のがん(乳がん・前立腺がんなど)や妊娠・授乳期の使用に関する十分な臨床データはまだありません。市販のマカ製品には他の成分を混ぜた複合サプリも多く、成分比や品質が不明なものでは有害事象の原因が特定しにくいことがあります。信頼できる企業が販売するマカ単独製品を選ぶと安全性の確認がしやすく安心です。

まとめ

マカは「精力剤」というイメージが強い一方で、HPA軸や腸脳軸を介したストレス調節、エンドカンナビノイド系への作用、神経保護・抗炎症・抗酸化といった多面的な働きを持つことが最新研究で示されています。
ストレスやメンタルヘルス、ライフスタイル改善をサポートする選択肢として、これからの健康づくりに役立てることができるでしょう。

参考文献

Ulloa del Carpio N, Alvarado-Corella D, Quiñones-Laveriano DM, et al. Exploring the chemical and pharmacological variability of Lepidium meyenii: a comprehensive review of the effects of maca. Front Pharmacol. 2024 Feb 19;15:1360422.

井手口 直子

井手口 直子帝京平成大学薬学部教授・薬剤師

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